皮革産業としてのゼラチン・コラーゲン

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--河合産業さんは、どんな事業をされているんですか?
河合産業 河合一典社長
いま一番力を入れているのはゼラチン・コラーゲンの原料確保です。
--ゼラチン?コラーゲン?それも皮革産業なんですか?
ゼラチンとコラーゲンの粉末
皮革産業といえば革のバッグや小物で、
ゼラチン・コラーゲンといえば食材や化粧品のイメージが強いかと思いますが、
皮革もゼラチン・コラーゲンも、広い意味ではタンパク質の一種です。

河合産業では、皮を精製して
ゼラチンやコラーゲンの原料をメーカーさんに納めています。
--皮を使ったものが革製品になるとは限らないんですね。
そういった使い道を想像される方が多いのですが、
皮革産業というのはすべてがバッグなどの革製品製造業ではないんです。
--皮からつくられたゼラチンは、たとえばどんな形で製品化されていくんですか?
ゼラチン質には冷えると固まり、温まると溶ける特性があるのですが、
身近なところはコンビニのレンジ・アップ商品やお惣菜などに使われています。

私たちの卸先の会社さんでゼラチン粉末などに加工され、
そこからコンビニ商品の製造工場などに納入されています。
--ラーメンのつゆとかですね
そうですね、ラーメンに限らずスープものの煮崩れ防止に使われています。
輸送中にこぼれてしまうのを防止するため、
昔はスープを別包装にしたりして対策していたのですが、
ゼラチンの特性を利用することで、その必要もなくなりました。
--コラーゲンとゼラチンは別のものなんでしょうか?
簡単に言うと、動物の体の中で最も多くあるタンパク質がコラーゲンで、
ゼラチンはコラーゲンから作られます。

ゼラチンを低分子化したものがコラーゲン・ペプチドです。
低分子化することで素材特性が変わり、冷えて固まらなくなり、
また吸収もされやすくなるので、化粧品や健康食品に使いやすくなるんです。

このコラーゲン・ペプチドをコラーゲンと一口に言う事が多いようです。
全くの間違いというわけではありませんが、
コラーゲンとゼラチンとコラーゲン・ペプチドの3種類がある事を、
この機会に是非知っておいて欲しいです。
--なんだか安定した事業のような印象です。
いやいや、大変な時期も沢山ありました、
たとえば、昔はフィルム写真の現像に必要な薬剤にゼラチンが使われていたんですが、
今はもうデジタルカメラの時代なので・・・。
時代の変化に応じて失われてしまったニーズもあります。

ですが、化粧品や健康食材としてゼラチン・コラーゲンが注目されてきたので、
時代のニーズに応じて形を変え、事業を続けてきています。
--河合産業さんはいつごろ創業されたのですか?
会社としては昭和22年に荒川で開業したのがはじまりですが、
膠(にかわ)を主軸に事業を行っていた個人事業主の頃を含めると
大正時代から続いています。

ちなみに、膠(にかわ)というのは聞いたことありますか?
--聞いたことはありますが、あまり馴染みは・・・
にかわ
これがニカワです。
古くからは日本画や革靴、ハンドバッグなどにも使われていました。
一種の接着剤ですね。
--もう使われていないものなんですか?
だいぶ減ってきてはいますが、
歴史のある製品、たとえばバイオリンなどには今も使われています。

素材の接着に科学的な接着剤を使ってしまうと
本来のバイオリンとは違う音になってしまうんです。
--伝統の音を変えない為に必要な産業なんですね。
伝統といえば、墨にも使われています。
墨汁ではなく硯(すずり)で擦って使う固体の墨のほうです。
こちらも伝統的な味を出す為に欠かせない製法なんです。
--他に皮革を使った事業は行っているのですか?
実際に製品化したポークルアー
自然環境のことを考えた、皮を使ったルアー、
ポークルアーなんてものを作っています。

自然保護という観点から、プラスチックのルアーが
使用禁止になっている釣り場が増えてきており、
そんな釣り場でも、毎年湖底を掃除するたびに、
大量のプラスチックルアーが引き上げられています。

その点、河川に落ちても2週間で分解されるポークルアーは
自然との共存という面でとても注目されているんです。
--何か開発で大変だったことはありますか?
魚がきちんと食いつくよう、プルプルのまま製品化しないといけないのですが、
プルプルのまま処置を行おうとすると、どうしてもカールしてしまうんです。
--モツ煮込み鍋みたいですね
ポークルアーの素材になる皮
ちょうどそんな感じです。
ルアーの形に切り出す機械にかけるためには
プルプルさを保ちつつ、平らに仕上げないといけないんです。

試行錯誤で素材的な問題は解決できたので、今は問題なく製品化できていますね。
--型を切り出す工程も御社でやられているんですか?
そういった機械は手元になかったので、
新規に導入するか、他社に委託する必要がありました。

型抜きの機械を作っている会社さんに問い合わせたら
「お隣にウチの機械を入れた会社さんがあるので、そこに頼んでは?」と。
--隣ですか!?
すぐそこです。

同じ草加の繋がりということで、
良い外注先が見つかってラッキーでした、偶然ですが(笑)
--他にどんな事業をやってらっしゃいますか?
犬用ガムの革
あとは犬用のガムですね。
--よくペットショップに売っていますね、骨の形に結んであったり。
そう、犬用ガムも皮を使って作られているんです。

牛皮が使われているのですが、
違う動物の皮を使ったものも開発中です。
--新規に開発中というと、牛ではダメな理由というのがあるのですか?
そういうわけではないんですが、
日本の鳥獣被害問題というのを知っていますか?
--いえ、あまり詳しくは。
現在百億円規模の鳥獣被害があるのですが、
その8割が鹿による害なのです。

食害で若木がすべて食べられてしまったりと、
生態系に影響が出てしまっているので、
全国的に駆除運動が進んでいるんです。
--ジビエという言葉も流行ってきましたね。
食肉の件もありますが、
肉だけではなく、シカの皮を使って何かできないか?と、
埼玉県の北西部の方から相談を受けています。
--そこでガム、と。
開発中の鹿皮ガムのサンプル
はい、野生動物ですから自然についた傷もありますし、猟銃や罠などで傷ついた皮は革製品には使えないものも出てくるので、
革の品質に左右されない使い道というのも業界では求められています。
--品質へのこだわり、という言葉だけでは語ることの出来ない問題もあるんですね。

品質へのこだわりによって選別から外れた皮も存在するわけです。

しかしそれは人間の都合であって、どれも同じ命ですから、
無駄にならないよう、大切に使わなければならないんです。

河合産業株式会社 河合一典

昭和22年創業当時より豚皮を食品、工業用に精製。
現在はメーカーに納入後、ゼラチンやコラーゲンとして、化粧品、健康食品、医療用にと広く利用されている。
また、近年河川、湖沼の汚染が問題視されている中、環境負荷の大きい石油製品のルアー(疑似餌)に代わり、豚皮を特殊加工した「ポークルアー」を製造している。

所在地
草加市中根1-14-1
電話番号
048-936-2267
URL
そうか革職人会 河合産業 株式会社