- --伊藤産業さんは何をやられている会社さんなんですか?
- ソフトレザーというものを作っています。
- --名前からすると柔らかい皮でしょうか?
-
はい、主に手袋に使われるような柔らかい皮です。
たとえばこのあたりの製品ですね。
- --すごく柔らかいですね。
ソフトレザーを作り続けて長いのでしょうか? -
祖父の時代まで遡るのですが、
昭和27年に創業し、元々はシカの革で手袋を作っていました。
そして私の父がその技術を引き継ぎ、ゴルフの手袋の時代へ、
そして今はファッション路線として、
羊皮を使った高級ソフトレザーのドレス手袋の時代になりました。
- --ソフトレザー手袋といっても色々な製品があるんですね。
-
はい、でも同じ皮を使えばいいというわけではないんです。
たとえばこのゴルフ用の手袋と、ドレス用の手袋、
さわり心地が違いませんか?
- --ドレス用の手袋のほうがスベスベしていますね。 あと少し生地が厚いような気がします。
-
ドレス用の手袋はタッチ感、
触ったときの柔らかさと手触りの心地よさが重視されます。
スーパーソフトと呼ばれる素材で、厚さは0.6~0.7mmくらいですね。
ゴルフ用手袋はスポーツ用品ですから、
グリップ感と握り加減が正確に伝わるようダイレクト感が重視されます。
厚さで言うと0.5mm、そして滑りにくい特性も持たせなければなりません。
これを私たちはストッピングレザーと呼んでいます。
- --複数の特性を両立させないといけないんですね。
-
こういったソフトレザー作りをメーカーさんから評価していただいて、
今はジャケットやバッグ用としても弊社のソフトレザーを提供しています。
- --市場からのニーズがあったということでしょうか
-
こういった手触りを求めていたんだと、
特にレディース市場からはとても歓迎されました。
- --確かに触って感動する革=ソフトレザーな気がします。
やはりこれを作るのは一筋縄ではいかないんでしょうか? -
歴史と職人の経験あってのものですが、
品質を向上させるために、最新の技術も惜しみなく投入しています。
- --最新技術というのは?
-
たとえばステンレスドラム。
皮の洗浄や染色に使う、ドラムという木製の機械があるのですが、
平成20年に最新式の金属製のものを導入しました。
- --木製とは何が違うんでしょうか?
-
まず安全性ですね。
旧型の木製ドラムは全体がグルグルとまわることで
中の液体や皮を攪拌させます。
金属製は外周部は回転せず、
中身だけ回転するので近くにいても危険性がありません。
- --家庭用の洗濯機みたいな構造ですね。
-
洗濯機のように全自動とまではいきませんが、
動作もある程度は機械的に制御することができます。
たとえば、指定した時間で回転方向を反転させることで、
薬品の浸透を均一にすることも出来るんです。
- --他には金属製のドラムの利点はありますか?
-
そうですね、たとえば皮の染色やなめしです。
これらの工程で特に大切なのは、
温度・pH・時間の3つなのですが、
それらもすべてコントロールすることができます。
厳密な基準をクリアすることができるので、
エコレザーの製造にも必要ですね。
たとえば夏場と冬場では水の温度が異なってしまい
季節によって品質にバラつきが出やすいのですが、
そのあたりを制御することで、年間を通しで一定の品質を保つことが出来ます。
また、木製のドラムは使用した薬剤が染み込んでしまうので、
使用後に別の薬剤を使う場合は念入りに洗浄しないと
前に使った薬剤が混ざってしまい、これもまた品質の低下を招いてしまいます。
そこで金属製のドラムを使うことで、
薬品の純度が高いまま、なめしや染色を行うことができるんです。
- --安全性と品質のために金属製ドラムを導入されたんですね
最先端の機器ということで、色々な製品を作ることができるのでは? -
ドラムがあれば何でも~というわけにはいきません。
経験と技術はもちろん、薬剤やそのほかの機材など、様々な要素が集まって
ソフトレザーという商品を作り上げていますので、
靴のような堅い皮を作れといわれても、ちょっと困っちゃいますね。
- --伊藤産業さんは高級ソフトレザー専門の販売を行っているというわけですね。
-
厳密にはちょっと違います。
技術開発用などの例外を除いては、基本的に私たちが皮を買うということはありません。
ウチのウリは技術です。
他社さんから「こういうソフトレザーに加工してほしい」という依頼を受け、
皮を送ってもらい、要望通りのソフトレザーに加工してお送りし、加工技術料を頂く。
そういった事業がメインになります。
- --色々なところから注文が来るんですか?
-
日本中から注文を頂くのですが、
品質を信頼して頂いてのことなので、
原皮のチェックは念入りに行っています。
日本は皮の仕入れで海外に依存することが多く、
海外から直接原料の皮が送られてくる場合もあるのですが、
世界的に皮の品質が落ち込んでおり、中には使えない皮が入ってくることもあります。
- --どういった原因があるんでしょうか?
-
たとえば干ばつ、そしてBSEや口蹄疫など、様々な要因があります。
かといって革の品質を落とすわけにはいきませんので、
原産地の人と協力して品質のチェックを行うこともあります。
- --品質に対する意識統一を狙っているんですね。
- 品質といえば、伝統工芸品に使う革の製造も行ってきています。
- --どんな製品でしょうか?
- 甲州印伝という伝統工芸品になります。
- --漆模様のついた鹿革の伝統工芸品ですね。
-
そうです、印傳屋 上原勇七の下地、
祖父の代からずっと鹿皮の下地加工で協力させてもらっています。
- --伝統工芸品に求められる品質をずっと守り続けているんですね。
-
はい、今は私で3代目ですが、
それらの技術を4代目の息子に伝えているところです。
祖父の時代から脈々と受け継いだソフトレザーの技術を生かし、
将来的にはさらに繊細な手触りや、弾力性なども含めて研究を続け、
色々なソフトレザーを提供できるようにする予定です。
彩鞄のメンバーとしても、誰にも負けないソフトレザー職人として
協力していけたらと思います。
世界各地の羊皮のなめしと染色仕上げ加工を行っています。
主に服飾用手袋、衣料、袋物用革の委託染色仕上げ加工を行っており、エコレザーの製造も承っています。
- 所在地
- 草加市瀬崎2-20-18
- 電話番号
- 048-922-2575
- URL
- そうか革職人会 伊藤産業 株式会社